拡張された署名 Publidia #112
今週もよろしくお願いします。
数年ぶりに青山ブックセンターに行きました。
前々職のオフィスが青山ブックセンターのバックヤードにあり、よく行ってた書店なのですが、改めて良い書店だなと感じました。
新刊も厳選して平積みされているので、読みたい本とたくさん出会えました。
# 今週のトップストーリー
🤖 NYTの新しい動き
The New York Timesの動きを2つ紹介する。
1.enhanced bylinesにより強化された署名欄
NiemanLabによると、NYTが特定の記事にはジャーナリストが過去どのように活動を行っていたか情報を付与したenhanced bylinesを追加したと伝えている。
この機能は2022年から実験的に限られたコーナーで使われており、今回拡大した模様。
NiemanLabの記事では、他の媒体でも似たような実験をおこなってるようである。
TheVergeも一部の記事で似たような署名になっている。
この記事をどのような記者が書いてるかとてもわかりやすい。
NiemanLabの記事では、Google検索の品質評価ガイドラインのE-E-A-T(経験、専門性、権威性、信頼性)を意識したものではないと編集長もしくは副編集長が語っている。要はSEOを意識したものではないと。
書き手がどんな背景を持っているのか、読者にとってはとてもありがたい機能だと感じる。
enhanced bylinesを日本の新聞やオンラインメディアも取り入れるか楽しみである。
2.ポッドキャスト専用アプリをリリース
NYT Audioというアプリをリリースした。NYTのポッドキャストをキュレーションするアプリのようだ。提携した雑誌のオーディオ版やThe Athleticなどのスポーツポッドキャストや記者による朗読記事などが配信されるようである。
幅広い番組の配信をもとに、広告事業に取り組むようだ。
しかし、一部業界メディアからは大変不評のようである。
AudibleやSpotifyなど既に大きく市場を握っている中に専用アプリ(聴ける番組が限られているもの)を市場投入する理由が理解できないという点だ。
NYTの熱心な読者にとってはとてもUXが優れていると思うが、その人数が投資したコストを回収できるかは自分も疑問だ。
また、アプリの運営コストをウェブサイトと同等と考えている人もいるが安くない、そもそもユーザをカバーするならiPhoneとAndroidに対応する必要があるからだ。仮に、ノーコードツールで作って、チープなアプリを作ってもかなり広告費をかけてインストールを促進させないといけない。
結局アプリを立ち上げるのは、ウェブサイトをもう1つまったく別物を立ち上げるのと同意である。技術、デザイン部門やオペレーション部門をもう1つもつ必要がある。
兎に角、アプリがどれぐらい持つか気になるところであり、仮にこのアプリが成功したとしても再現性のない成功であると感じる。
それは悪いことではなく、NYTしかできない取り組みということである。
📣 推し活の理解
アニメイト池袋本店が40周年を迎え、その軌跡を紹介している。
アニメイトといえば、説明不要かもしれないが、アニメグッズを多く揃えたショップで、現在は世界最大規模のアニメショップとなっている。
83年に池袋本店はオープンしたが当初は苦戦していたことや、現在の活況までの道のりが記事では書かれている。
昔はアニメイトといえば、ビルの中の奥まったところにあったイメージだった。少なくとも大阪の阿倍野の店舗はそうだった記憶がある。現在は、一階に店舗があり入りやすい入口の店舗が多い印象である。
最近の推し活でよく出てくる、アクスタ(アクリルスタンド)についても語られている。
コロナ禍でリアルイベントでの収益化が難しくなり、グッズの強化をした運営側の都合や、これまでの定番グッズのフィギュアやぬいぐるみ、抱き枕などに比べて、写真をアクリルにプリントするだけというメーカー側の手軽さもありそうだ。
そうしたアクスタが増えた背景もあるが、なんとなく推し活をする上での自己表現として、Twitterやinstagramの存在も大きかったと感じる。
アクスタはアニメキャラクターだけでなく、ジャニーズや芸人なども出している。おそらく、いろいろな芸能人が出している。
少し前に出た、ケビンスという芸人のアクスタにいたっては、立つのか怪しいということで話題になったのを思い出す。
📖 週刊誌がなぜ売れなくなったのか
週刊朝日が休刊することを受けて、週刊現代 元編集長 元木昌彦さんのインタビューが朝日新聞デジタルに掲載されている。
自分の社内slackでも、多くのメンバーが週刊誌系メディアに関わっている関係でこの記事は話題に上がった。
出版社系と新聞社系の週刊誌との比較なども語られていたり、インタビューの中で本質的なことが語られている。
特に、語られている中で面白いと思ったのは「ネットの中で完全に独立した週刊誌を作る」というコンセプトである。雑誌をただオンラインで読めるようにするのではなく、新しい形を作っていくべきだし、元木氏自身はもう年寄りだからわからないと謙遜して、もうかっている出版社が考えるべきじゃないかと語っている。
オンラインメディアになったことで、ページ順や特集ごとのまとまりがバラされて読ませる体験より、ちゃんとまとまりになっている雑誌という媒体は強いと思う。
テクノロジーやデザインを駆使して、新しい雑誌の再発明の余地はまだあるのではと感じた記事だった。
# 🗾 国内注目ニュース
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カルチュア・コンビニエンス・クラブ 高橋誉則新社長が描く将来像(NHK)
TSUTAYAの社長に就任した高橋誉則氏のインタビューを軸にした記事。TSUTAYAの状況などを軽くなぞっており、TSUTAYAの状況がしやすい内容になっている。 -
【NewsPresso(ニュースプレッソ)】β版5月19日開始 GPTを活用し海外ニュース記事を要約して紹介 ビジネスやテック関連情報などを日本語で紹介、グノシー運営のノウハウを応用し試験運用(Gunosy)
GunosyのAI活用事案。海外ニュース記事を要約して、ニュース元にリンクしている実験サービス。いろいろと権利的に気になるところはあるが、どうなっていくか注視していきたい。 -
必要なのは“クリエイティビティとビジョン”。LINE NEWSの「ユーザーリサーチチーム」がひと味違う理由。(LINE NEWS note)
ニュースアグリゲーションであるLINE NEWSのプロダクト関連メンバーへのインタビュー。ユーザーリサーチなどを通じて、意思決定の質を高めるための活動を行っているとのこと。LINEの源流であるNAVER社はユーザーリサーチをかなり早くから取り入れてたのを知っているため、その点は伝統的メディア企業も取り組めればよいのにと感じる。 -
「WEBTOON×個人作家」の可能性 現役編集者が予想、次の注目ジャンルは...:(J-CAST トレンド)
WEBTOON編集者による次の注目ジャンル。個人作家では、と語っている。WEBTOONは、スタジオ制作が是という雰囲気があるが、そこに一石投じる意見だと感じる。 -
中国と韓国が指摘する日本の“弱点” 国内Webtoonでヒット作が少ない理由(KAI-YOU.net)
2022年の秋に行われたイベント録。国それぞれの市場もあるので、1つの意見として読んでみる。
# 🌏 海外ニュース
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The decline of webpages(The Rebooting)
元DIGIDAY編集長のBrian Morrisseyのニュースレターより。Googleがルールを作り、AIの登場により、Googleの検索も変化せざるを得なく、パブリッシャーのトラフィック減少を引き起こす。ユーザへの直接配信できる方法(例えば、ニュースレターや動画、イベントなど)を集中するだろうと。 -
「AIが作成した記事」で波紋のCNET、従業員が労働組合を結成して対抗する理由(WIRED.jp)
AIが作成した記事で炎上した米CNET。労働組合を結成したが、その理由について書かれている。親会社のレッド・ベンチャーズからのプレッシャーから、メディアとして労働組合を組んで守ろうとする動きとのこと。 -
Everything we know about Instagram’s Twitter clone, due this summer(TechCrunch)
InstagramがTwitterライクなタイムラインを今年夏に立ち上げるとのこと。SubstackがTwitterライクなNotesをリリースしたことで、Twitterがブロックしたが、次はInstagramをブロックするのか? -
チャット広告 への関心が高まるなか、パブリッシャーと広告主の対応は(DIGIDAY[日本版])
マイクロソフトのBingやGoogleがチャットUIに移行する可能性がある中で、パブリッシャーや広告主がどうしていくべきかについて書かれている。 -
OpenAI leaders propose international regulatory body for AI(TechCrunch)
ChatGPTのOpenAI創設者のサム・アルトマンがAIの国際規制機関が必要だと考えていると。 -
Spotify may use AI to make host-read podcast ads that sound like real people(TechCrunch)
Spotifyがポッドキャストのホストの声を学習して、ホストそっくりの声を生成して広告の読み上げをする技術を開発中とのこと。未来だと感じる。 -
Buzzfeed Founder Says AI Will Replace Most Static Content: Report 05/22/2023 (MediaPost)
BuzzFeedの創設者の発言から、生成AIに傾倒していくのではという分析。ゲームやクイズなど既にAIを利用しているといわれている。
# 📕 出版に関するニュース
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『Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞』実施中止のお知らせ(本屋大賞)
Yahoo!ニュースと本屋大賞が主催の本屋大賞 ノンフィクション本大賞がYahoo!ニュースの方針変更で中止となるようである。ノンフィクション本大賞はおそらく新たなスポンサーを探して再開を模索する模様。 -
日本ABC協会 雑誌部数にオーディエンスレポート追加へ 今秋「雑誌発行者レポート」リニューアル(文化通信デジタル)
日本ABC協会が、定期的に公開している雑誌部数に加えてWebメディアの会員やSNSフォロワー数などをまとめたオーディエンス数を加えるとのこと。既に雑誌広告はWebメディアとセットで売られるケースもあるので、自然な流れと思われる。 -
「ネット書店の送料の実態、調査を」 消えゆく本屋支援、議連が提言(朝日新聞デジタル)
街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟がネット書店の送料の実態調査を行い、政府に提言を行う方向で動いてるとのこと。もうそういう次元の状況ではないと思われる。 -
日本電子出版協会 2023年5月22日 橋本 大也 氏: ChatGPTと本の未来(JEPA)
日本電子出版協会で行われた橋本大也氏による書籍執筆時でのChatGPTの活用事例の発表。映像もあり、具体的な事例なので参考になるのでおすすめしたい。
# 編集後記
先日募集したインタビューにご応募いただいた皆様ありがとうございました。
依頼する方には既にご連絡させていただきました。
今週も読み終わった方は、押していただけるとうれしいです。
老舗の出版社講談社のグループ会社であるKODANSHAtech LLCにてディレクターとして働いています。複業として、ウェブメディアのマネタイズ支援なども行っています。以前は読書管理サービス ブクログの事業責任者、メディアドゥでマンガサービスとブロックチェーンプロダクトに関わっていました。
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ポッドキャスト:アヨハタの金曜回帰φ瑠 / メディアのげんざい
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