ページビュー経済の終焉とメディアの再構築 Publidia #212
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昨年末にも登壇したHON.jpさんのイベントに登壇します。
マンガ業界Newsまとめの菊池さん、出版業界ニュースまとめの古幡さん、北米エンタメニュースまとめのlibroさんと西田宗千佳さん、HON.jpの鷹野さんとご一緒するイベントです。
前半は無料となっています。
# 📍 ピックアップ
今回は以下の内容をピックアップして紹介しています。
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ページビュー経済の終焉とメディアの再構築
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Taboola、生成AI市場に本格参入
ページビュー経済の終焉とメディアの再構築
元DIGIDAY編集長であり、現在は業界レポート『The Rebooting』を発行するBrian Morrissey氏は、昨今のデジタルメディア業界をめぐる急激な変化について、「ページビュー経済の終焉が、静かに、そして突然に訪れている」と指摘する。
検索経由での集客とプログラマティック広告を主軸にしてきたモデルは、Googleの生成AI機能「AI Mode」によって根幹から揺らいでいる。
この影響を最も象徴的に示しているのが、Business Insiderの動向だ。
2025年5月、同社は従業員の21%に相当する大規模なリストラを実施。CEOバーバラ・ペン氏は、同社収益の約70%がウェブトラフィックに依存していることを認めており、55%近い訪問数減少が事業構造を直撃している。BIは併せて、検索連動型のアフィリエイト事業からも撤退し、動画など新たな収益源へのシフトを図っている。
Morrissey氏によれば、今や多くのメディア幹部は「AIに対して情報を提供する“情報卸売業者”」としての将来像を現実的に検討し始めているという。
すでに、一部のユーザーはGoogle検索ではなくChatGPTを日常的に利用しており、Google自身もGeminiによって検索ビジネスを自己カニバリゼーションする兆候を見せている。
一方で、Google Discoverは現在も有力なトラフィック供給源として機能しており、「ページビュー経済の最後の蛇口」として重要視されている。
しかしその仕組みは不透明で、トラフィックが安定する保証はない。Morrissey氏は「Discoverに依存しすぎることで、抜本的な事業多角化の判断が先送りされるリスクがある」と警鐘を鳴らす。
メディア各社は今まさに岐路に立たされている。ページビューという旧来の通貨が価値を失いつつある今、いかにして“次のモデル”を築くかが問われている。
ただし、「情報卸売業者」という表現には、やや飛躍があるとの印象も否めない。
情報をAI企業に提供することで、これまでのような収益が確保できる保証はなく、むしろ不透明さが増している。確かに、重厚な取材に基づく報道や専門性の高いコンテンツは、AIの学習素材として重宝される可能性がある。
しかし一方で、事実の組み合わせによる汎用的なニュースや記事は、徐々に価値を失い、いわば“卸価格”が下がるリスクすらある。
Morrissey氏も、今が事業多角化を本格的に進めるべきタイミングだと語っているが、重要なのは「何に多角化するか」だ。
本業からかけ離れた周辺事業に安易に手を伸ばすのではなく、あくまで読者や顧客の課題に正面から向き合い続ける姿勢こそが、メディア企業が次のステージに進むための条件だろう。
# 🗾 国内ニュース
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メディア・サバイバル 「2050年のメディア」の下山進が問う「持続可能なメディア」(週刊エコノミスト Online)
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デジタル広告の「ガイダンス」公表 ニセ誤情報拡散や違法アップロード助長指摘も 総務省(FNNプライムオンライン)
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R-18設定クリエイターの皆さまへサービス手数料改定のお知らせ(2025年9月1日〜)(pixivFANBOX公式)
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「なろう系」サービスを今さら立ち上げる意味と勝算(日経ビジネス電子版)
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セオリー無視でのしあがる才能には「ライブハウス」が必要だ(日経ビジネス電子版)
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TVer 、生活者の6割が「利用経験あり」 総接触時間は1日440分に(DIGIDAY[日本版])
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社告:土曜の夕刊、8月から休止します 土曜の特集記事は平日夕刊に掲載します(毎日新聞デジタル)
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YouTube新時代 、メディアはどう向き合うのか? 文藝春秋PLUS村井弦編集長に聞いた「挑戦」と「展望」 オトナの女性の気になること、企業に人に聞いてみた!(1) 既存メディアはYouTubeでどう変わるのか?(婦人公論.jp)
# 🌏 海外ニュース
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Netflixは、YouTubeとの競争を加速させる中で、Daily Beastのテレビパイロット番組の権利を取得しました(Semafor)
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サッカーブランド「Mundial」が読者とのつながりを深める方法(Press Gazette)
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YouTube、動画コンテンツのモデレーション規則を緩和(The New York Times)
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CNNの親会社であるワーナー・ブラザース・ディスカバリーが、2つの会社に分社化することを発表しました(Axios)
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Vanity Fairがマーク・グイドッチを編集長に任命(The New York Times)
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なぜ最も価値のあるニュースルームのKPIは「リーチ」ではなく「所属感」なのか(The Audiencers)
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生成AIに対するパブリッシャーからの対価請求、IAB Tech Labがガイドラインを策定中(Media Innovation)
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ディズニーとNBCユニバーサルが、Midjourneyを著作権侵害で提訴した。(Axios)
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TechCrunchが欧州から撤退、プライベートエクイティからの買収直後(Media Innovation)
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私たちは欧州を離れません。絶対に.(TechCrunch)
# 📕 出版関連ニュース
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【独自】セブンが定期購読雑誌の店頭受け渡しと電子書籍のネット販売から撤退へ、サービス終了の裏にある「懐事情」(ダイヤモンド・オンライン)
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インプレスと丸善CHIが電子書籍の定額サービス 10月に(日本経済新聞)
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日本の出版業界が変われないのは男性中心だからではないか?(出版・読書・コミック・図書館・デジタルパブリッシング)
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政府の「書店活性化プラン」、返本の抑制も研究…在庫管理のICタグ普及推進(読売新聞オンライン)
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日本の出版社は「21世紀の産業とは思えない」ほど後れを取っている…デジタルを使って紙を売る「欧米の超大手出版社」の取り組み(飯田 一史)(現代ビジネス)
# 📍 ピックアップ
Taboola、生成AI市場に本格参入
ネイティブ広告最大手のTaboolaが、生成AI市場に本格的な一歩を踏み出した。
2025年6月12日、同社は新たなAIチャットボット製品「DeeperDive」を発表し、パブリッシャー向けにAIチャットボットの提供を開始した。
Taboolaはこれまで、記事下の「おすすめ」欄で表示されるクリックベイト広告で知られてきた。そのビジネスモデルは、注意を引く見出しと画像で読者のクリックを誘導し、収益を上げるスタイルだ。
しかし、Googleの検索生成体験(SGE)やOpenAIのChatGPTの普及により、読者がウェブサイトを訪れる動機そのものが揺らぎ始めている。
そうした環境の変化に対応するため、Taboolaは独自のAIチャットをパブリッシャーサイトに直接組み込むという新たな戦略を打ち出した。
この「DeeperDive」は、単なる質問応答ボットではなく、読者の関心に応じて情報を要約したり、追加の関連コンテンツや広告を提示したりする“収益化型AIエージェント”である。
The Vergeの報道によれば、チャットボットはTaboolaの広告ネットワークと連動しており、ユーザーとの会話の中で自然に広告コンテンツを挿入する仕組みが構築されているという。
TaboolaのCEOアダム・シンガル氏は「AIの未来はパブリッシャーの中にある」と強調し、GoogleやOpenAIといったプラットフォーマーにデータや収益を奪われるのではなく、自社ドメイン内でのエンゲージメントと収益を最大化すべきだと語っている。
今回のチャットボットは、すでに60を超える大手メディアとパートナーシップが結ばれており、各社のブランドや編集方針に即したカスタマイズも可能だという。
もちろん懸念もある。AIによる回答の信頼性や、広告と情報の境界が曖昧になるリスクなど、メディア倫理の観点から課題は残る。
また、Googleなど検索依存の収益モデルが変容する中で、Taboolaのような“クリック経済”プレイヤーがどこまで通用するかは未知数だ。
とはいえ、生成AIがメディア産業を揺るがす今、Taboolaのようなプレイヤーがプラットフォームから自立した収益モデルを模索する動きは、出版業界全体にとっても重要な示唆を含んでいる。
単なる“バナー広告の再発明”に終わるか、それとも“AI時代の新たな読者接点”となるか。
# 編集後記
今回紹介した、飯田 一史さんの記事がとても面白かったです。
どうしても、SNSや縦型動画を使った施策に目が行きがちですがマーケティングオートメーションなどをおこなっている件などは、日本はとても遅れていると思います。
当然、出版社の規模によっては書かれている内容(レコメンド)が効きにくい部分はあると思いますが、こうしたマーケティングに向き合っていない印象が強いです。

老舗の出版社講談社のグループ会社であるKODANSHAtech LLCにて広告関連の担当や子会社事業のメディア担当ディレクターとして働いています。複業として、ウェブメディアのマネタイズ支援やデータ分析なども行っています。以前は読書管理サービス ブクログの事業責任者、メディアドゥでマンガサービスに関わっていました。
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